2009年03月08日

22

 このわずかな時間で、あたしの心はもう瑞穂さんから一穂さんに移り変わっていた。
あの時にみた、優しく悲しい目にあたしは惹かれ、そしてあの悲しい音色のトランペットに夢中になっていった。

 太陽が完全に、水平線の向こうから姿を全部見せると当たりは、赤々としていた風景から、空の色と海の色が、普段みている青に変わっていく。夜中に出て行ったと思われる数隻の漁船が、水平線の向こうからその姿を見せた。
 一穂さんは「夜明けのトランペット」を吹いた後に、あの曲「波の音色」吹き、それが吹き終わると静かに、水平線の彼方に想いを
送っているように思えた。
それは、20分位・・・
あたしも同じように、水平線に目線を這わせながら、一穂さんの1歩ほど後ろから見ていた。
静かに、ゆっくり振り向いた一穂さんは、微笑んでいた。悲しい目をしていなかった。
「さあ、おなか空いただろう?マンションに戻って朝食にしよう!」
あたしは小さく顎を引いて頷いた。
あたしの肩に手を置いて、車に戻るように促す。
瑞穂さんにも、同じような台詞を言って、波止場の端からゆっくりした足取りで、車に向かう。
動かない瑞穂さんの横を通り過ぎる時に、瑞穂さんの腕を取った。
ようやく我を取り戻したように、瑞穂さんは私が触れた腕に目線をずらして言った。
「お、俺じゃダメなのか・・・」
その声は、いつもの瑞穂さんらしくない弱々しい声だった。
あたしは何も答えない。
そして、もう一度、今度は強く、瑞穂さんの腕を捕まえると、引っ張る形で1歩前に踏み出した。
「答えてくれっ!」
不意に、叫んだ声にあたしは驚いた。勿論、先を歩いていた一穂さんも振り返った。
「その答えは、今じゃないとダメなんですか?」
あたしは、瑞穂さんに聞いた。瑞穂さんの目は真剣そのものだったが、体には力が宿ってないように肩の力は抜けてだらっとした感じで立っている。目だけが真剣だった。
「ごめん、大きな声をだして・・・今じゃなくて良いから、考えておいてくれないか?」
あたしはこくっと頷いた。
少し離れた、一穂さんは、あたし達に方に向かって声をあげた。
「そろそろ、朝飯にしようぜっ!車で待ってるから!」
そのまま、1人で先に車に向かった。あたしはもう一度、瑞穂さんの今度は手を繋ぐ形で引っ張り
「さあさあ、ご飯たべに行きましょうよ!あたしおなかすいちゃったっ!」
笑顔で瑞穂さんを諭すように言った。
暫く黙っていた瑞穂さんだったけど、あたしをちらっとみて微笑みながら
「その笑顔、好きなんだよな!」
あたしが照れるような言葉をさらっと言ってのける。
「もうっ!ばかぁ!照れるじゃないの!」
あたしは、瑞穂さんの背中をばしっと叩いた。
「じゃー兄貴が待ってるし、行こうか!」
今度は、瑞穂さんがあたしの手をぎゅっと握り締めて、車に戻ろうとする。あたしはその手に引っ張られる形でそこから歩を進めた。
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posted by Natu at 17:42| グァム 晴れ| Comment(0) | 果てしなく限りなく | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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